【3344日目】書評『風俗嬢の見えない孤立』(角間惇一郎・光文社新書)

 

遅ればせながら、GAP角間さん待望の新刊『風俗嬢の見えない孤立』(光文社新書)、書評を書かせて頂きます!

 

期待通り、2017年上半期の新書・ベスト1位というべき一冊です。「ピンクと黒の爆竹」「風俗を文化としてではなく現象として捉える」などなど、最初から最後まで角間さん節炸裂しまくりの一冊で、同じく風俗の世界に関わっているNPO関係者の一人として、「そうだそうだ、もっと言ったれ!」と喝采しながら拝読しました。

 

個人的な感想ですが、本書及びGAPさんの最大の魅力&長所は、「風俗の世界の論理を内面化した上で活動している」点に尽きると思います。

 

本書で述べられている通り、NPOの世界では、「時計を見た時、自分が何かを届けたいと思っている相手がどこで何をしているのかを想像できないと、何をやっても成功しない」という教えがあります。

 

ひきこもりでも、ホームレスでも、生活困窮者でも、当事者の世界を動かしている論理、当事者が抱いている世界観を(道徳的判断や個人の倫理観をいったん脇に置いておいて)理解しないと、そもそもの支援や活動が成り立たない。

 

本書で批判的に取り上げられている通り、風俗の世界はどうしても「女性の貧困」というキーワード一色で語られがちな傾向にあります。また風俗で働いていることを公言している一部の「セックスワーカー」の女性に焦点が当たりがちでもあります。

 

ただ、風俗の世界でのマジョリティは、決して「貧困」でも「セックスワーカー」でもない。

 

それなりに稼げているので貧困ではないが、職業意識も当事者意識も希薄で、風俗で働いていることは「黒歴史」以外の何物でもないので、人には絶対に言えない・・・といった層が「サイレント・マジョリティ」であると。

 

にもかかわらず、この最もボリュームのある層にアプローチする団体が、今まで存在していなかったわけですよね。

 

この層にアプローチするためには、風俗の世界で働いている人たちの価値観や論理を理解し、それらを内面化した上で行動する必要がある。

 

婦人保護や女性の人権擁護に携わっている団体は、そもそも「風俗=性的搾取・性暴力」という視点に立脚しているので、風俗の世界で働いているサイレント・マジョリティの価値観や論理はまず理解できない(したくもない)でしょう。

 

また、当事者が「セックスワーカー」という職業意識・労働者意識を明確に持って、当事者同士で連帯して、風俗の社会的地位を向上させていこう…という発想は、論理的には100%正しいですが、少なくとも現場のサイレント・マジョリティの価値観(そもそも当事者意識も職業意識も持っていない・持ちたくない)からは大きくかけ離れている。

 

その点で、GAPさんは風俗の世界で働くサイレントマジョリティの人たちの価値観や論理を理解して支援活動を設計・実践している、唯一の団体だと思います。本書『風俗嬢の見えない孤立』、その意味でもこれから風俗で働く人たちの支援に関わりたいと考えている人、及びNPOの世界に関わりたいと思っている方は必読の一冊です。

 

一方で、あえて本書の内容にツッコミを入れるとすれば、前述の長所がそのまま短所になると思います。

 

本書の中でも、角間さんご自身がメディアや人権団体とのディスコミュニケーションについて言及しておられますが、「風俗の世界の論理を内面化した上で活動している」という点が、逆に社会の理解を得る上で妨げになる場合がある。

 

本書で批判的に取り上げられている「貧困×風俗嬢ブーム」、私個人としては角間さんとほぼ同意見なのですが、一点付け加えるとするならば、「こうしたブームはむしろ逆手にとって利用するべき」という立場です。

 

これは私の個人的な意見なのですが、「風俗の世界で起こっていることを、風俗の世界の論理や言葉を用いて、そのまま社会に伝えるのは極めて困難」だと思います。必ず、何らかの別な言葉で「翻訳」することが必要になります。

 

風テラスが、開始から1年でほぼ全ての大手メディアに取り上げられたのも、風俗の世界で起こっていることを、「社会福祉の世界の言葉」及び「法律の世界の言葉」で翻訳して発信したからです。もちろん、翻訳の精度や発信の仕方は常に問われますが、既存の世界の言葉にうまく置き換えて翻訳することができれば、風俗の世界で起こっていることの一部を、適切な形で社会に伝えることができる。

 

昨今の「貧困×風俗嬢ブーム」に関しても、「貧困」という言葉でひとくくりにして翻訳(誤訳?)されたわけですが、マジョリティではないにせよ、風俗の世界に貧困で苦しむ人が一定数いるのは間違いない事実なので、その事実に光を当てるためにも(そして、貧困だけが風俗の世界の全てではないということを社会に伝えるためにも)、逆手にとって活用すべき、と考えます。

 

ここで非常にいやらしい言い方をしてしまうのですが、同じく風俗の世界をNPOの目線から扱った拙著『性風俗のいびつな現場』、今のところ4刷で3万部売れています。『風俗嬢の見えない孤立』、個人的には超名著だと思いますし、できれば10万部くらい売れてほしいと願っていますが、現実的には、拙著と同じように3万部売れるのは難しいのではないでしょうか。

 

私も、今回の角間さんの新書と同じように、「ルポ」と「エロ」を一切排除して、ひたすらファクトベースでロジックを積み重ねるというスタイルの本を書きたかったんですよ。拙著の中でも書いていますが、私自身も学生時代から「ルポとエロはもうウンザリだ」と思っていたので。

 

ただ、それでは新書として=ビジネスとして売れない。

 

良くも悪くも、風俗の世界に関しては、読者も視聴者も「裏の世界」「貧困女性のルポ」を読みたい&観たいという期待が圧倒的に大きいので、程度の差はあれば、そういったニーズに対してそれなりに応えないと、そもそも出版や放送自体ができない=ビジネスとして成り立たない場合があります。

 

拙著も、前半であえて激安店や妊婦母乳店などのルポを入れて=「ピンクと黒の爆竹」を鳴らしまくって読者をひきつけておいて、最終的に後半の風テラスの章=メインテーマである「風俗と福祉の連携」に持っていく、という構成にしています。

 

今回の角間さんの新書、「風俗の世界で起こっていることを、風俗の世界の論理や言葉を用いて、そのまま社会に伝える」ことを一つの目的にされていると思いますが、人間は基本的に「自分が見たいものしか見ない・見えない・見たくない」存在なので、そういった人たちにとっては、サイレント・マジョリティの立場にある風俗嬢の孤立は「見えない孤立」というよりは「見たくない孤立」なのだと思います。

 

そう考えると、「見たくない」と思っている人たちにも見てもらうため、孤立の問題に気づかない人にも気づいてもらうために、(これは角間さんご本人というよりも、光文社の担当編集者の方へのツッコミになってしまいますが)最初から最後まで角間さんの独演会的な構成にするのではなく、GAPの支援を受けている女性の声や連携先の企業、風俗店長の方々の声やエピソードを交えるなど、もう少し売れ線を狙った編集・構成にしても良かったのではと。

 

風俗に関してNPOの立場から新書を書ける人間は、現時点では私と角間さんしかいないのと、GAPさんの活動をよりうまく新書に落とし込めれば、売上=ビジネスの面でも『性風俗のいびつな現場』を超える一冊になり得た可能性が十二分にあったと思うので、個人的には「超勿体ない!!!逸失利益を考えると、これは軍法会議ものだぞ(笑)」と思いました。

 

まとめると、「風俗の世界の論理を内面化」していることが本書の最大の魅力であり、かつ「風俗の世界の論理を内面化」しているがゆえに(新書としては)ビジネスになりづらい=読者に理解されづらい&届きづらいのでは、というのが私の感想です。

 

本書の中で角間さんが主張されている通り、風俗の世界の問題を解決するカギは「ビジネス」にありますが、風俗の世界の論理の中には、一般社会に向けた「ビジネス」を構築・展開する上での妨げとなる様々なハードルが隠れているのでは、と。

 

本書で書かれていた通り、角間さんの「地道なビジネスマンとして粛々と問題を解決」というスタンス、私も激しく同意なのですが、「今相手が必要としていることだけに向き合う」という風俗の世界の論理は、場合によっては当事者、及び業界全体にとってマイナスに作用する場合もあると思います。

 

AV出演強要問題で大混乱になったAV業界のように、女性やユーザーの目先のニーズに過度に最適化することで、社会性を失って結果的に業界全体がクラッシュしてしまうということは風俗の世界でも大いに起こりうることだと思うので、そのあたりとの折り合いをどうつけるか、次回のサミットの場でお聞きしてみたいと考えております。

 

というわけで、次回7月17日(月・祝)のセックスワーク・サミットは、『風俗嬢の見えない孤立』というテーマで角間さんをお招きして、出版記念トークイベントを行います!角間さんのサイン会もありますので、ぜひふるってご参加ください。

 

サミットの詳細・申し込みはこちら

 

 

*********************************
一般社団法人ホワイトハンズ 
 
代表理事 坂爪真吾(さかつめ・しんご)
 
私たちは、「新しい性の公共」をつくります。
 
HP:http://www.whitehands.jp/
Twitter:http://www.twitter.com/whitehands_jp
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新しい「性の公共」をつくるゼミ:2017年4月開講!


★ホワイトハンズ:2017年のイベント予定

 

■2月8日(水) 新書『見えない買春の現場』発売!

 

■2月8日(水) 新書『セックスと超高齢社会』発売!

 

■3月5日(日) セックスワーク・サミット2017「JKビジネスの逆襲」

 

■3月28日(火) 『一億総貧困社会』刊行記念トークイベント@高円寺

 

■4月6日(木) 風テラス@新潟、開始(相談予約随時受付中!)

 

■5月20日(土) 風俗福祉基礎研修2017@大阪

 

■5月21日(日) 「障がい者の性」基礎研修2017@大阪

 

■6月4日(日) 「障がい者の性」基礎研修2017@渋谷

 

■6月11日(日) ららあーと@東京

 

■6月17日(土)〜18日(日) 風テラス@鶯谷&池袋(14時〜18時:相談予約受付中!)

 

■6月24日(土) 新潟風テラス・活動報告@ユニゾンプラザ

 

■7月17日(月・祝) セックスワーク・サミット2017夏@渋谷

 

■8月27日(日) 「障がい者の性」基礎研修2017@名古屋

 

■9月17日(日) セックスワーク・サミット2017秋@渋谷「社会的養護と性風俗」

 

■10月29日(日) 風俗福祉基礎研修2017@渋谷


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