【2996日目】書評『歌舞伎町はなぜ<ぼったくり>がなくならないのか』(武岡暢:イースト新書)



若き社会学者による、はじめての「歌舞伎町学」入門!

拙著『セックスと障害者』と同じ藁谷さんが編集されたとのことだったので、発売を楽しみに待っておりました。

タイトル通り、日本一の歓楽街・歌舞伎町の中で、ぼったくりが再生産される構造を解明した一冊。

東大博論のダイジェスト版的な内容で、いきなり固い法律の話から始まるので、キャッチ―なタイトルに惹かれた読者&歌舞伎町潜入ルポ的な内容を期待していた読者はやや面食らうかもしれませんが、内容は非常に分かりやすく面白いです。まさにこれからの「歌舞伎町学」入門となりうる一冊だと思います。

以前、北条かやさんの『キャバ嬢の社会学』の書評でも書いたのですが、夜の世界をテーマに論文を書くことは、調査方法や研究倫理の点も含めて、非常に難しいですよね。本書も、ぼったくりがテーマであるにもかかわらず、ぼったくりをする客引きには事実上インタビューしていない。そういった点も含めて、歌舞伎町一本で東大の博論を書くのは色々な意味でかなり大変だったのでは。ちなみに私は学部ゼミのレポートだけで挫折(笑)しました。

第三章のアムステルダムの飾り窓と歌舞伎町の比較部分は、著者自身も指摘している通り、かなり苦しいですよね。上野ゼミだったら「そもそも比較対象にならんだろ」と血祭りになりかねない危険水域ギリギリな感じで、読んでいてハラハラしました。

個人的に非常に勉強になったのは、1985年の風営法改正の波及効果の下り。風俗が「警察マター」になったことで、新宿区が風俗営業対策に関わることから手を引いた。法律で立ち入りの人員が制限されたことで、大量の店舗に対する取締りが不可能になり、警察も風俗の全体像を把握できなくなった。

つまり、ある業界が「警察マター」になってしまうと、場合によってはその業界に誰も関わらなく(関われなく)なってしまい、結果的にその業界の中にいる人たちが社会的に不可視化され、様々な被害やトラブルが放置&黙認されてしまうリスクがあると。

最近、HRNさんが「AVに監督官庁を設けろ」という主張をされていますが、警察を監督官庁にして、AV業界を「警察マター」にしてしまうと、場合によっては「風俗の二の舞」になりかねない。この点は、関係者の間でもっと広く認識されてしかるべきだと思いました。

また第二章のパトロールの話も非常に面白かったです。振興組合のパトロール、てっきり昨年のサミットでお呼びした寺谷さんのような方が徒党を組んで客引き相手にガチンコバトルをやっているでのはと勝手に想像していたのですが、全く違うんですね。

まとめの部分、「日本の風俗産業の制度的な不透明性と物理的な不透明性が情報の非対称性を生み出し、歌舞伎町という社会構造の中で、客引きによる仲介の消えないニーズ、そしてぼったくりに動機づけられる&引っかかる人間を再生産し続ける」という分析は明晰かつ的確だと唸らされました。

ぼったくりを無くすための提言の箇所、国家による解決でも市場による解決でもない「コミュニティベースの解決」に希望を見出す点、個人的にも同意します。

ただ、「客引き組合」の結成による客引きの組織化と相互監視の実現は、果たして現実味があるでしょうか。本書でも書かれていた通り、社会的に排除された人たちが集まる傾向がある世界なので、客引きの自主性や善意に頼る方向性はあまり期待できないと思います。

組合をつくるにしても、例えば客引きとスカウトを届け出制にした上で、地元の振興組合、そして外部の専門職である弁護士やソーシャルワーカーと連携を行い、客引き自体のケアと社会的包摂の可能性を担保した上で組織化を行う、といった流れの方が成果が出る様な気もします。この辺は私も門外漢なので、いつか著者の武岡さんに直接お伺いしてみたいですね。

本著を通して、歌舞伎町という社会構造の中でぼったくり(客引きやスカウト)が再生産される仕組みが明らかになったので、今後の研究の中では「そうした構造を踏まえた上で、どのような施策をどのようなさじ加減で取れば、歌舞伎町の秩序と平和を持続的に保って行けるか」というよりプラグマティックな問いに対する答えを、ぜひ明らかにしてほしいです。

偉そうに先輩風を吹かしてしまいますが、風俗の世界に関わるNPOとしての私なりの答えは『性風俗のいびつな現場』にガッツリ書きまして、風テラスで試行錯誤をしながら実践中なので、武岡さんなりの答えをお聞きできる日を楽しみにしております!

というわけで、歌舞伎町に興味のある人はもちろん、キャバクラや風俗に関わる人は全員必読の一冊です。法律や制度のグレーゾーンの問題と格闘されている専門職や当事者の方も、読んで損はありません。ぜひ書店等でチェックされてみてください。



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一般社団法人ホワイトハンズ 
 
代表理事 坂爪真吾(さかつめ・しんご)
 
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新刊『セックスと障害者』(イースト新書)、4月10日発売!

『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、1月6日発売!

★ホワイトハンズ:2016年のイベント予定
 
■6月19日(日) 「障がい者の性」基礎研修2016@渋谷

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■7月7日(木) 京大人文研「液状化する親密圏」@東京丸の内

■7月17日(日) 「障がい者の性」基礎研修2016@京都

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