【2266日目】書評『日本の風俗嬢』(中村淳彦:新潮新書)

中村淳彦さん、待望の新刊。第六章「性風俗が普通の仕事になる日」に、SWASHの要さんやGAPの角間さんと並んで、私も特別出演して結構いいこと(当社比)言ってますので、自著の気持ちで宣伝させて頂きます!

性風俗に関する入門書的な新書って、ありそうでなかったですよね。古くは、松沢呉一さんの一連の「風俗ゼミナール」シリーズがありましたが、そちらは男性客や風俗嬢向けに書かれたものであり、基本的に風俗と接点のない一般の人向けに書かれたものではなかった。

また、余計な主観や政治的イデオロギーを交えずに、業界や当事者の置かれている現状を淡々と活写する、という中村さんスタイルが今作でも健在なので、単純な性風俗礼賛でもなければ、偏狭な否定論でもない、まさに入門書としてふさわしい一冊になっていると思います。

とりあえず、今後性風俗の問題を議論しようとする人は、最低限、本著に書かれている事柄を(個々の事例や風潮、価値判断への賛否はともかく)踏まえた上で、議論のテーブルに着く必要があるはず。少なくとも、「悪い男たちが女性を搾取している」云々といった、旧態依然の善悪二元論からはいい加減卒業しましょう、と。


以下、本書の内容を踏まえた上で、個人的に考えているビジョンを書きます。

来年のセックスワーク・サミット2015では、東京オリンピックが性風俗産業に及ぼす問題=「2020年問題」を扱いたいと考えているのですが、その過程で、「性労働基本法」という新法の提案をしたいと企んでおります。

性風俗の問題を解決するためには、「浄化」でも「合法化」でもなく「社会化」が必要である、と『日本の風俗嬢』の中でも述べさせて頂いたのですが、社会化を実現するためには、サービス内容を社会化することが、経営者側・女性双方にとって経済的なメリットにもなりうる業種・業態に、人・モノ・金が集まる仕組みを作らなければならない。

本書の中で、「最新版・性風俗店の採用偏差値」が掲載されていましたが、SMクラブの女王様が偏差値66で、高級ソープ(偏差値67)とほぼ同レベル。また、回春マッサージ・M性感が偏差値59で、都市部人気デリヘル(偏差値60)と同レベル。

SMも回春マッサージも、技術と経験が求められる世界で、技術の習得や向上によって、偏差値6〜7程度は挽回が可能になる。

「偏差値52の格安ソープが妥当な女性でも、技術を習得して向上させれば、M性感や回春マッサージの第一線で働ける」と記載してある通り、本人の容姿や素人性、はたまた生サービスや本番に頼らなくても、稼げる。属人性(容姿や才能)で決まる範囲が少なく、教育や経験に高い価値が置かれる世界。つまり、単なる時間や裸の切り売りではなく、持続可能な仕事=「労働」なわけですよ。

現行の法律体系では、性に関わる仕事は、非合法かつ社会性の無い「売春」と、一応合法だが社会性の無い「性風俗」の2つがありますが、ここに合法かつ社会性のある「性労働」というカテゴリーを増やして、規制のための法律ではなく、働く当事者の健康と権利を守るための基本法を整備した上で、風営法と売春防止法の軛から解放し、人・モノ・金が集まりやすい仕組みをつくっていく。

具体的には、本番系産業については、組合や納税、衛生安全管理の面で、現時点で(一応)最も社会化されているソープランドを完全に合法化(売春ではなく性労働という位置づけにする)して、不要な摘発リスクを無くす。

非本番系産業については、粘膜間接触を伴わない(性感染症のリスクのない)業種・業態(上述の回春エステ系のサービスやM性感、SMなど)に対する規制緩和を行い、条件付きで、店舗型による営業を可能にする。店舗型で客単価の高いサービスを行えば、(そこで働ける女性は限られるかもしれませんが)経営は圧倒的に安定するはずですし、働く女性の安全度も、密室で見知らぬ男性と一対一になる無店舗型とは比べ物にならない。

『日本の風俗嬢』の中にも一部書かれていた、店舗型に対する浄化作戦への批判=「安全な店舗型を行政が浄化作戦で潰してしまい、危険な無店舗型ばかりになったのはけしからん」について、個人的には、90年代〜00年代当時の店舗型性風俗店が、無届営業や「●●流」といった本番等の法律違反をしまくっていたという事実もあるので、あんまり擁護する気にはなれない=自業自得やんけ、という気持ちもあるのですが、特に、建前上本番NGになっているヘルス系サービスは、どうしたって「法律を破ったもん勝ち(隠れて無届営業&本番やったもの勝ち)」「その方が楽に儲かるじゃん(そうしないと生き残れないじゃん)」という流れになってしまうので、再店舗型化や社会化は無理だと思うんですよね。

まとめると、「売春」と「性風俗」に続く第三のカテゴリー「性労働」を作った上で、完全合法化したソープと、店舗型化したエステ系&SM系サービスをそのカテゴリーの中に組み入れて、広告規制や出店規制を緩和する。本番がしたい人はソープに行けばいいし、そうでない人はエステ系やSM系サービスに行けばいい。

男性客の風俗リテラシーが低下し、女性側の教育力も低下している今、明確な目的やサービスの流れが分かりづらいヘルスやデリヘルって、意外と利用しにくい&遊びにくいと思うんですよね。マナーやルールを教える人もいないし、そもそも守るべきマナーやルールとされるものが無理ゲーだらけ。「裸で抱き合ってもいいけど、挿入はダメ」とか「プロなのに素人」とか「お金を払っているのに恋人気分」とか。ソープであればゴールが非常にわかりやすいし、回春エステは完全に受け身でOK。不毛な勘違いも減らせますし。

「売春」を撲滅しようとしたり、「性風俗」を完全に規制しようとしたりするのは無理&無駄なので、「性労働」カテゴリーの業種・業態を優遇することで、人・モノ・金の流れを変えて、間接的に「売春」と「性風俗」のパイを削る。その上で、「売春」や「性風俗」の世界で働かざるを得ない人に対しては、福祉的な手段で対応する。

・・・こんな感じで、性風俗の「2020年問題」を議論できればなぁ、と考えております。

本書『日本の風俗嬢』を読んだ感想として、性風俗の「2020年問題」に対して、個人的に上記のようなビジョンを考えましたが、もちろんこれだけが考えられ得る選択肢というわけでは全くなく、もっと多様なビジョンを出せると思います。それだけ、本書の提示している内容は、示唆に富んでいるはず。

入門書や教養書の枠を超えて、性風俗の問題に対して、多くの人が自分なりの意見やビジョンを出せるようになるための叩き台、ベースとなる一冊になればよいですね。今後の重版出来、期待しております!!


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一般社団法人ホワイトハンズ 
 
代表理事 坂爪真吾(さかつめ・しんご)
 
私たちは、「新しい性の公共」をつくります。
 
新刊『男子の貞操』(ちくま新書)、4月9日発売!

★ホワイトハンズ:2014年のイベント予定

 
■8月31日(日) セックスワーク・サミット2014@渋谷・弐

■9月7日(日) ヌードデッサン会「ららあーと@東京」

11月16日(日) 「障がい者の性」基礎研修@京都

11月29日(土)「障がい者の性」基礎研修@渋谷

11月30日(日) セックスワーク・サミット2014@大阪

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