【1856日目】書評「踊ってはいけない国で、踊り続けるために 風営法問題と社会の変え方」(河出書房新社)


豪華メンバーの執筆陣による、濃い内容の論考満載の一冊なので、もちろん読んで損は無いのですが、個人的には、永井良和氏の意見「他業種から学ぶ、クラブと風営法の在り方とは」が読めるだけで、買う価値は十分あると思います。

以下、クラブの問題を、随所でデリヘルの問題に置き換えて考えつつ、書評を書きます。



●永井良和:他業種から学ぶ、クラブと風営法の在り方とは


風営法に関する一般向けの書籍は、事実上、永井氏の「風俗営業取締り」(2002年・講談社新書メチエ)しか存在せず、風営法に関して、学問的・歴史的な観点から骨太の意見を言える方は、おそらく永井氏しかおられないと思うので、個人的には、氏の意見を拝読できただけで、大満足&お腹いっぱいであります。


クラブは、デリヘルのように「無店舗型」にできないので、「ハコがあるからハコを叩く」という方針の警察(世間)の格好の餌食になってしまった、とのことですが、「情報監視社会では、対面の信頼関係をどれだけ持っているかがで、運が決まる」という部分には納得。

デリヘルで敷衍すれば、「地域住民の了解」「合法的な形での、何年かにわたる運営実績」「警察の管理下にある業界団体の設立」が、社会の中で生き延びていくための、数少ない選択肢になるわけですが、クラブ業界でも極めて実現が難しいこれらの課題を、デリヘル業界が実現できる可能性は、ゼロを通り越して、マイナス200%でしょう。

現実的には、ホワイトハンズがセックスワーク・サミットで主張した「セックスワーク3.0」の方針=これまでの性風俗とは全く異なるサービスをゼロベースで作り、そちらに人・モノ・金が集まるような仕組みを作れ、という、宇野常寛さんが昨日の朝日新聞Beでおっしゃっていたような「源氏の思想」で行くしかないのでは、と改めて思いました。



●荻上チキ:まずは「白書」と「窓口」作りを


これはもう、ホワイトハンズのための書いてくださった文章なんじゃないの、と勝手に妄想(笑)しているのですが、現場で動いているNPOの人間の一人として、とても共感&グサグサ刺さりました。

「風営法の問題は疑似問題」という指摘はまさにその通りで、セックスワークの問題も、「障害者の性」の問題も、童貞処女問題も、ある意味では、全て疑似問題、社会的なセクシュアル・リテラシーの欠如の副作用の表れに過ぎない、と思います。

「白書」と「窓口」を作ろう、というのは、NPOのはしくれとして、ホワイトハンズとしても常に意識しておりまして、「障害者の性」白書は、毎年テーマを変えて発行しています。

「窓口」に関しては、各種テキストやガイドラインの作成販売、ワークショップの開催等を通して、「障害者の性」問題に関心を持たれた個人や組織、メディアに対して、正しい情報を伝える、という活動を行っています。

もちろん、「白書」も「窓口」も、「作ろう!」と口で言うのは簡単なのですが、実際の作成&運営、そして、それらを社会的に機能させていくことは、大変なんですよね。行政にありがちな、「窓口を作っただけでおしまい」となってしまっては、しょうがないですし。

そのあたりも含めて、「障害者の性」問題に対する「白書」機能と「窓口」機能を、今後もより強化していかなければなぁ、と思わされました。

ただ、デリヘルの世界がまさにそうなのかもしれませんが、そもそも「白書」「窓口」が作れない(作るべきではない)世界も、あるのかもしれません。

前述の通り、デリヘルの社会化は、現行の風営法の枠組みの中では200%不可能なので、「そもそも社会化できないものを、社会化しようとしてしまう隘路」にハマらないよう、注意する必要はあるかと。



●齋藤貴弘×木曽崇:どう”風営法”を変えるのか 〜法改正に向けて今、何が起きているか〜


木曽崇氏、ツイッター上で日々つぶやきを興味深く拝読しているのですが、「デリヘルの世界にも、木曽氏のような頼れる専門家の方がいらっしゃればなぁ〜」と、強く思います。

風営法に「積極目的規制が無い」というのはまさにその通りですが、荻上さんも書かれていた通り、警察の目的は「文化や産業の保護育成」ではなく、「営業取締と、社会秩序の維持」なので、積極目的規制が無いこと自体は、特に批判点にはなり得ないのでは、と。

「24時以降の営業が禁じられているが、それを守ると、そもそも営業として採算が合わない」という点、デリヘルで言えば、「違法な本番行為をやらなければ、そもそも客が来ない」「不衛生な生サービスをしなければ、そもそも客が集まらない」みたいな感じでしょうか。

また、「営業を許可制にすれば、暴力団関係者が経営に関わることをある程度防げるが、届出制だと、防げない」という点、デリヘルにとっても重要な論点かと。

セックスワーク・サミットでも、「デリヘルを届出制から許可制に変えろ」という論点が出たことがありますが、実現の可能性はさておき、議論する価値は大いにある論点だと思います。


現場でクラブを営業している人の意見として、「フーゾクと一緒にされるのが、単純に嫌だ」という、風営法自体に対する無知・誤解に基づくものが多い、という点は、非常に興味深かったです。

永井氏の論考でも書かれていましたが、風俗営業をしている人自体が、風営法の立法趣旨や内容を全く知らない、というのは、本人の責任だけには還元できない側面があるかと。

風営法に関するまともな解説書やテキスト、そして、風営法の歴史や立法趣旨を学んで、それを経営に活かしていくことができるような講義やセミナーの場が、これまでほとんど存在しなかった、という事実も、問題化されてしかるべきだと思います。

受験勉強で言えば、受験生を、授業を1時間も受けさせず、参考書も教科書も問題集も無い状態で、勉強時間ゼロのまま、いきなり試験に挑ませるようなものです。それで、受験生が手も足も出なくなって、カンニングして捕まる、みたいな状態が、延々と続いてきたのではないでしょうか。

「まずは、当事者が法律をきちんと学べる場を作る」、これは極めて重要な問題提起になると思いました。


また、「社会運動として成立させるためのキャッチフレーズを重視してしまったがゆえに、政治の場では通用しない中身になってしまっている」という問題、これも悩ましいジレンマですよね。

「障害者の性」問題についても、未だに、ほんっ〜〜〜〜〜とうに未だに(笑)、「セックスボランティア」というタイトルで論じられることが多く、私も、ウンザリを通り越して、半ば諦めているのですが、要は、「セックスボランティア」的なキャッチーなフレーズを通さないと、世論の興味を喚起できない(それだけ、世間の障害者リテラシー&セクシュアル・リテラシーが低い)という問題があるわけです。

これに関しては、もう「二正面作戦」で行くしかないんじゃないの、と思います。世間のリテラシーを向上させることは、短期的に見ればまず不可能なので、「ベタ」なキャッチフレーズを、動員や世論喚起の「ネタ」としてうまく活用しつつ、その裏で、集まった注目度やエネルギーを、うまく行政に届くような政策提言に変換して届ける、というウルトラC級の離れ業が必要かと。

まぁ、政治の世界では昔から行われてきたことなので、ブレずに頑張れば、やってできないことはない、かと。みんなで頑張りましょう!


そして、「風営法の当事者(経営者や従業員、利用者)に、当事者意識や、現状変革意欲が無い」という点。これは、福祉の世界、ソーシャルワークの世界では、古典的な問題ですよね。ある意味では、そういった人こそが、福祉の対象なんですから。

この場合、「当事者に、自助努力や現状変革をする意欲が無いのだから、もう業界ごと、全部潰してしまってもいいんじゃないの」というロジックになりがちですが、それでは、問題がアングラに潜っておしまい、で、何の解決にもならないかと。

ここにおいても、一部のやる気のある人たちが主導して、過度のパターナリズムに陥らないようにしつつ、当事者が幸せになれるような仕組みを客観的に設計する、という離れ業が必要になってくるのかな、と思いました。

風俗営業の問題は、突き詰めれば、当事者だけの問題ではなく、社会の問題なのですから、全てを当事者に帰責するのではなく、社会のみんなの力で変えていかなければダメなはず。



●小熊英二×東浩紀:どう”社会を変える”のか


東さんが、「名づけるという行為」の大切さ、「区切って総括するプロセス」の重要性を述べられていて、非常に考えさせられました。

どうしてもNPOなどの現場で働いていると、哲学的な思考や抽象論を軽視しがちですが、それらがないと、活動の実践を最終的に完成させること=社会的に意味のある形に体系化することはできない、と思いました。東さんの本、これから読みます!



●杉野直也:オタクが政治に参加してみた ロビイングから生まれた省エネ運動

●のいえほいえ:サラリーマンこそ異議申し立てを


いずれも、大変貴重な現場からの生の声。とても参考になりました。

まとめると、いずれも「社会人として、当たり前のことを、当たり前にやろうね」という極めて凡庸な結論になるのですが、これまでの社会運動やNPOは、その「社会人として当たり前のこと」を当たり前にやっておらず、しょうもないネット上&内輪でのdisり合いや、礼儀作法に欠ける行いを繰り返してきたため、社会のみんなから敬遠されてしまった、という黒歴史があるかと。

自戒を込めて、「社会人として当たり前のことを当たり前にやるNPO」にならねば!と、痛感いたしました。「いつも心に省エネを」、座右の銘にしたいですね。


●まとめ

クラブの問題を、デリヘルの問題に置き換えて読むと、非常に得るものが多い一冊です。そして、ヤル気も湧いてきます。デリヘル&NPO関係者は、今すぐ、買って読まれることをお勧めします。間違いなく、損はしませんので。お勧めです!



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